お題:「背伸び」「吐息」


 今日は珍しく仲の良いクラスメイトたちが任務だなんだでいなくて、帰り道を二人で歩いている。何もしゃべらない彼を気にして見上げてみたら、思いの外頭の位置は遠かった。普段猫背だから、ふとした時に背が高いことを実感してときめく。何度だって惚れ直してしまう。口が悪くても、素っ気なくても、嫌いになんてならない。

「身長、何センチあるの?」
「忘れた」
「十センチは違うよね」

 自分の頭上から手のひらを浮かせてみる。意味に気付いたのかそれなりにまっすぐ立ってくれたけど、目測では結局細かいことはわからない。頭ひとつ分はないけどそれなりの差はある。
 背伸びしたら届くだろうか。見上げてみれば全部見透かされたみたいな視線に少しひるむ。マスクしてるし無理だな。と、みせかけて、耳のすぐ近くのむき出しの頬へとキスをした。

「……やだった?」
「別に」
「じゃあ今度は、して欲しいなあ」

 控えめに言ってみるけど、ドキドキとうるさい心臓がこのまま爆発してしまいそうだ。どうせいつもわたしの願いなど聞いてくれないのだ。言うだけタダだと思って言っているから、期待なんて全然、ほんのちょっとしか、してない。

「なんつー顔してんだよ」
「だって、びっくりして……」

 うっすら吐息が頬をかすめた気がした。少しだけ触れたくちびるはカサついていた気がする。わたしのくちびるもカサカサだったかもしれない。次するときは、ぷるぷるのくちびるでいたいなあ。そんな事を考えて、恥ずかしさを紛らわせようとしたけど、ぜんぜん無理だった。
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