お題:意地悪しないで


 栞に用事があって、すごく久しぶりに玉狛支部にきた。今日の食事当番は烏丸くんらしい。カレーの、いい匂いがしている。

「いいなあ。こんな匂いかいだらお腹減っちゃう」
「部外者の分はないすよ」
「うっ……わかってるよ」

 部外者。その言葉に傷つく。人様の晩御飯にたかる気もないけど、一緒にどうですかって言ってくれるのを期待していなかったと言えばうそになる。誘ってくれたらいいなあって、それくらいの期待はあったし、栞も食べていけばって言ってくれていたので、甘える気でいたのに、烏丸くんは冷たかった。

「ご飯だけなら食べて行ってもいいですよ」
「ねえ! 烏丸くんが意地悪言う」
「今日みんないないし、迅さんに聞き忘れちゃったけど、どうせ帰り遅いし食べないんじゃない?」
「どうですかね」

 すました顔で、烏丸くんはみんなのカレーをお皿に盛り付けている。と言っても今日はみんな出ているらしいから、今すぐこれから食べるのもここにいる三人だけみたいだ。

「はいどうぞ」
「え?」
「俺そこまで性格悪くないです」
「冗談は冗談ってわかるように言った方がいいよ」

 カレーを受け取りながらそう言えば、しおらしく気をつけます。と言われる。

「嬉しくて、つい」
「え?」
「ウソです」

 この男は、こうやって適当なことばかり言って、世の中の女の人全員をたらしこむつもりなのだろうか。意地悪されているのに、どんどん虜になっていく気がしてすごく悔しい。
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