お題:あったかい缶コーヒー


 吐く息は白い。もうずいぶんと寒くなった。今年も残りわずかだなと考えながら空を見上げる。帰りがこんなに遅くなるならジャージでも持っていればこっそり履いて帰ることもできたのに。かさついて白くなったひざを触りながら思う。乾燥も嫌だし寒いのも嫌だ。

「よっ!」
「わ! びっくりした」

 こんな夜道で急に肩を叩くなんて信じられない。先に呼びかけて欲しい。バカなんじゃないの。

「寒いんに、んな格好あほちゃう?」
「制服なんだから仕方ないでしょ」
「いやいや、何か他にも着るとかあるやろ」

 水上はマフラーしかしてない私に呆れたようにしゃべりかける。たしかに昼間はそれなりにあたたかくもあるけど、日が暮れたらもうコートが必要だ。そんな水上はしっかりコートを着込んでいる。でもそれは、本部に部屋を借りてて荷物があるからで、そんなのはずるい。

「じゃあそれ貸してよ」
「無理」
「てか、水上こんなところでなにしてんの?」
「冷たいなあ。寒すぎて心もつめたなったん?」
「水上が上着貸してくれないからでしょ」

 すっとぼけながらも貸してくれる様子もなく、本当に冷やかしのためだけに声をかけてきたのかと思うとムカついた。

「しゃあないなあ」

 そうつぶやいて、水上は少し先に見えた自動販売機の前に立つ。もしかして何か買ってくれるのだろうか。期待しながら隣に立つと、水上はポケットから小銭を取り出して赤いランプが点灯した。

「ココア飲みたい!」

 お願いも虚しく、水上はブラックコーヒーのボタンを押した。期待した私がバカだった。まあ買ってくれるなんて一言も言ってないし。自分でココアを買ってあったまろう。

「ほれ」
「コーヒー飲めない」
「なら冷めるまで握っとき」
「いいの?」

 控えめに「ええよ」と言う水上の耳が赤いのは何でだろう。素直じゃないやつ。今は寒さのせいにしてあげる。私も同じようにあちこち赤くなってるだろうから。
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