お題:怒らせる
怒っていないと、本人はそう言うけれど、明らかに機嫌は良くない。こんなことで怒るなんて、そういう態度が私にもあるのが余計に怒らせるんだろうけど、仕方がないと思う。いつもならこうならないから、どうしていいのかわからないし、機嫌の取り方もわからない。
「イコさん」
「んー」
「怒んないでよ」
「いや別に、怒ってへんし」
呼びかけてもテレビを見ていて生返事だ。普段だったら、絶対顔をこちらに向けてくれると言うのに。そう思ったら、だんだん寂しくなってきた。
「次は一緒に行こうね」
「次があったらなあ」
先日たまたま、授業終わりに友達と夕飯を食べていこうかと話になったとき、嵐山くんに会った。その日達人くんはボーダーの任務があると言って早くに大学を出ていたから、嵐山くんもボーダーのお仕事があると思って声だけかけたら、休みだし柿崎くんとご飯を食べに行くところだと言って、友達がそれに乗っかるように話を合わせて、なんだかんだみんなでご飯に行くことになった。達人くんは他の男と二人きりは嫌だけど、大人数だったらいいよと前に言ってくれていたし、良く知る人たちだから嫌がることもないだろうと、すぐ見ることはないかもしれないけど連絡だけ入れて、みんなとご飯に行った。
「関西人がおらんところで、お好み焼き食うなんて、ずるいわ」
「達人くんお好み焼き焼くの得意じゃないって前に言ってたじゃん。関西は焼いたの出てくるからって」
「いや。それとこれとは話が別やん」
「そんなこと言われてもお好み焼き食べようって決めたの私じゃないし」
「俺も嵐山たちと飯行きたかったなあ」
「いつもボーダー同期で行ってるじゃん!」
「それとこれは話が別や!」
「そればっかり」
この何に怒っているかわからない感じ、ストレスが溜まる。好きなのに、ケンカなんてしたくないのに、いつもみたいに優しくして欲しいのに、なんでうまくいかないんだろう。
「……」
「怒っとる?」
「怒ってるのはそっちじゃん」
「いや、怒ってへんて」
「怒ってるよ! もう他の人とご飯いかなきゃいいんでしょ! わかったよ!」
「いやそういうこと言ってへん」
「じゃあはっきりして」
「……俺も行きたかったなあて。だってずるいやん」
「それはごめんね」
「いや、謝って欲しいわけちゃうねん。せやから俺も怒ってへんし。仕方ないってわかっとるし」
私にできることが何か全然わからなくて、もう達人くんが気持ちの整理をつけてくれるしかない。私には何も出来ない。いまだにあまり目線の合わない状況が辛くて、達人くんの手をぎゅっと握る。
「早くいつも通りの達人くんに戻ってください」
「……もし次一緒にお好み焼き行ったら、俺の作ったのが一番うまいって言ってくれる?」
「それは食べてみないとわかんないなー」
「愛情いっぱい込めるし」
「愛情かー、それは誰も勝てないね」
ようやくばっちりと目が合って、いつも通りのドヤ顔だ。このままキスをしたら、機嫌はなおってくれるだろうか。
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