お題:深夜のコンビニ
突然、肉まんが食べたくなった。もう、それはそれは究極な欲求で、九時頃に思いつき、我慢しようと悩んだ末、まもなく二十三時を迎えそうだというのに家を出た。どうしても、今日のうちにあのほかほかを感じたい。外は寒くてアホだなあと思う自分もいるのだけど、肉まんへの欲求には勝てなかった。
近所のコンビニへは五分も歩けば着く。暗闇の中に光り輝いているコンビニの明かりは安心する。二十四時間営業への安心感。心強い。夕飯からかなり時間も経っているし、口もお腹も肉まんを求めていた。
なのに、肉まんが置かれていなかった。肉まんが、というより肉まんが入れられる保温ケースが既に片付けられ、暗くなっているのだ。そんなことあるの⁉ と驚いたが、普段もそうだった。唐揚げだって、夜中には食べられないじゃないか。なぜそんな簡単なことを忘れていたのだろう。レジの前で呆然と立ち尽くし、わざわざ着替えて家を出てきた意味を頭の中で探した。
「こんな時間に何してんだよ」
振り向けば、何故かそこには荒船がいた。
「そっちこそ!」
目的を失い、わたしの方こそ今ここで自分が何をしているのか知りたかった。
「俺はボーダーの帰り」
「こんな時間に? 大変なんだね、ボーダーって」
「まあ、こんなに遅くなることは滅多にないけど」
荒船は帰り道と言うだけあり、弁当やらの棚を物色している。けれどこの時間、おにぎりなどはほぼない。
「……わたしさぁ、肉まん食べたかったんだよね」
「こんな時間に売ってねーだろ」
「そうなんだけど、いま食べたいんだよね」
「無茶言うな」
荒船にこんなことを言っても仕方ないことは分かっていた。でもこんな深夜に会えたのだから、何か解決策を見出してくれるかもしれないと、期待してもいいじゃないか。
荒船はわたしのことを半分無視して今度は冷凍庫の棚へと向かう。欲しいものが特にないわたしもついて行く。何も買わないで帰るの、せっかく来たというのにもったいないし、何かしら買って帰りたいが、何がいいだろう。
「肉まん、あるじゃん」
「え?」
冷凍庫の中を指さして、荒船はつぶやく。どういうことかと覗き込むけど、ガラスの扉が曇っていてよく見えない。そう思っていれば荒船が扉を開けて、ちゃんぽんの袋を手に取っている。ちょっとした惣菜コーナーを順に目で追っていたら、おいしそうな写真が付いたパッケージがそこにはあった。
「荒船天才!」
「そうだな」
にやりと笑う顔はすこしむかつくけどかっこいい。こういう時否定しないのもむかつくけどかっこいい。こんな深夜のコンビニで会えてうれしい。食べたかった肉まんを見つけてくれてうれしい。
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