お題:ねこ


 自動販売機へ寄ろうとしたら、ベンチになんとも不釣り合いなセットが存在していて、こっそりカメラを向けた。盗撮への罪悪感は少なからずあったので、シャッター音の出るカメラで。二枚目を写そうとしたところで、気付かれて嫌な顔をされた。

「何してんだ」
「荒船ってねこ平気なんだっけ?」
「俺が嫌いなのはイヌだ」

 興味なくふーんと、つぶやいて、荒船の横に行儀よくしているねこに触れる。目線を合わせようとしゃがんだのに、顔は荒船の方に向いている。この子はよほど荒船を気に入っているらしい。

「これ出穂ちゃんがいつも連れてる子?」
「そう。ちょっと見ててくれって押し付けて、どこかいなくなった」
「で、大人しく二人で待ってるんだ」
「お前が来てくれて助かった。代わってくれ」
「えーやだ」

 わたしの存在を知らんぷりするねこを、お構いなしに撫でまわす。首の下に指を滑らせれば、ねこはついにゴロゴロ言い出す。ずいぶん人馴れしてるなあ。こんなところにいれば無理もないけど。わしゃわしゃと撫でまわせば今度はごろんとお腹を向ける。かわいいじゃないか。

「お前の方が扱い慣れてる」
「荒船も撫でてみればいいじゃん」

 手を引っ込めたら物足りないのか、隣に座っている荒船の膝にまとわりつく。すりすりと頭をなすりつけて、これじゃ荒船の制服は毛だらけになりそうだ。

「わたしジュース買いに来たんだった」

 本来の目的を思い出して立ち上がる。何のジュースにしようかと商品を見比べる。

「俺の分も買って」
「えー」
「今立ち上がれない」

 振り返って見れば、ねこは相変わらず荒船のひざにすりすりしていて、荒船もねこを撫でている。ねこの頭をすっぽり覆ってしまいそうな大きい手なのに、手つきはとてもやさしい。

「ジュース買ってあげるから写真撮っていい?」
「好きにしろ」

 ねことのツーショット三枚とジュース一本。安いのか高いのかはわからないけど、わたしにとってはとても有意義な取引だった。
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