お題:授業中
一年生が受ける授業は大人数のことが多い。ゆえに教室も広い部屋のことが多くて、時間ギリギリに入ると友人の近くには座れないこともしばしば。今朝は前髪がどうにも気に入らなくて、一生懸命直していたら遅刻しそうにになってしまった。
近くに友達がいないか見回すけど、少し離れたところに固まっているのが見える。終わるまでは話ができそうにない。この授業はつまんないし寝ている人も多く、同じくすでに飽き始めてしまった。そもそも今まで五十分授業で精一杯だったのに、いきなり九十分も座らされて、退屈しないわけがない。
今日の学食メニューはなんだろう、なんてぼんやり考えていたら、三人前の隣の席に、ピンと背筋が伸びた男の子を見つけた。確かあれは生駒くんだ。剣道をしていたとかで、教室で見つけるといつも背筋がピンと伸びている。キリッとした表情で面白いことを言う関西人。わたしの知っている生駒くんはそれくらいなのだけど、もう少しだけ、仲良くなれたらいいなと、ちょっとだけ思う相手。
「今からプリント配りますからね。これを提出して帰ってください。これが出席の代わりになりますよ。内容は今日のおさらいです」
おじいちゃんの教授がゆったりと説明をしながら先頭の人にプリントを配って回る。友達の助けなしに、ちゃんとできるか不安だ。でも出さないわけにはいかないし、どうしよう。そう考えながら、回ってくるプリントを待っていた。すると、生駒くんがプリントを回すために後ろを向いて、バチッと目が合った。挨拶もできないし、手を振ろうにもなんだか微妙な距離だ。
束の間の思考。自分の方にもプリントが回ってきてしまって、結局何もできなかった。こういうところだろうな、彼氏ができないのって。そう思って真面目にプリントに取り掛かった。
「終わった?」
「あれ?」
「ここ、教えて欲しいねんけど」
プリントを記入し終えて顔を上げれば、前の席に生駒くんが真面目な顔でこっちを見ていた。プリントを終えて出て行く人がポツポツといて、少しざわつき始めた教室内。わたしの前の席の人ももう帰ったらしい。そしてそこへいつの間にか生駒くんがきて、わたしがプリントから顔を上げるのを待っていたみたいだ。そんなの、ドキドキしてしまう。プリント、もう少し丁寧に書いたらよかった。
「あってるかわかんないよ?」
「そんなのええって」
空の解答欄に、わたしの答えを書き写しながら、今度お礼にジュース奢るなあ、と呟いてくれる。相変わらずピンとした背中が、わたしを虜にしてゆく。かっこいいのにどこかかわいくて、やさしくて面白い人。この背中に、いつか簡単に触れることができる日が来るだろうか。そう考えてまたドキドキして、なんだかとても好きみたいだと、知ってしまった。
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