お題:あなたの好きなところ

 好きだと気がついたその日から、毎日ひとつずつ、好きなところが増える気がする。このまま何ヶ月も月日が経ったら、好きなところは増えなくなって、この気持ちも少しは落ち着いたりするのだろうか。
 自分がこの恋心をどうしたいのか、自分でもわかっていない。好きだなあって思って、深呼吸をして、鼓動を確認して、それがすごく幸せだ。どうにかなりたいなんて思っていないし、ずっとこうしていたいと願っていた。付き合いたいとか、触れたいとか、そう言ったことがあんまり現実的じゃなくて、好きだなあって感じて、あたたかい気持ちになって、それで、充分だった。

「最近、俺たち仲が良いってよく言われてるよね」
「そうかな」
「うん。他のクラスの、犬飼にも言われて」
「犬飼くん」

 誰だろう。知っているような知らないような。他のクラスの人にも言われるの、ちょっと嬉しいけど、これ以上近寄らない方がいいということなのだろうか。

「犬飼はボーダーで一緒で」
「あ、ボーダーの人! だから名前だけ聞いたことあったのかも」

 そっかーなんて話がそれたことを利用して話題が戻らないように、次の言葉を考えるけど、焦って何も浮かばない。

「……俺と仲良いの、嫌じゃない?」
「い、嫌じゃないよ!」
「ならよかった」

 日直だった私の仕事を、たまたま近くにいて担任と目が合ったと言う理由で手伝ってくれている蔵内くんは優しい。更にそんな言葉をかけてくれるなんて、本当に優しい。

「蔵内くんは、平気なの?」
「ん?」
「綾辻さんとか……その」

 蔵内くんは生徒会副会長の綾辻さんと噂があった。後輩だし面識はないものの、顔は知っているし、並んでいるとお似合いだとも思う。本人たちは否定するものの、男女なんていつどうなるかわからないではないか、と思ったりすることもある。

「綾辻とは何もないよ」
「そっか」

 その一言に心底安心する。きっとこれが聞きたくて、わざわざ口に出したんだろうと思う。でも、ずっと直接、確認したいと思っていたことだった。

「綾辻と噂されるより、ミョウジさんと噂になる方が、ドキドキしたよ」
「え?」

 いつもの笑顔を向けられる。どうしようもなくドキドキして、好きがこぼれていきそうだ。これは一体どうしていればいいのか、恋愛初心者の私にはちっともわからなかった。
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