お題:閉じ込める(られる)

 部屋に帰ると、うっすら嗅ぎ慣れた臭いがした。期待をして部屋の奥へと足を進めれば、つまらなそうにテレビを見る彼女がいて、間の抜けた声でおかえりと呟いた。家主が帰ってきたというのになんだその態度は、と思いつつキッチンに向かい、目当てのものを見つけた。

「あ、開けないで!」

 彼女が立ち上がるのを横目で見ながら、鍋の蓋を持ち上げる。腹を空かせて帰ってきた彼氏に言うセリフじゃない。

「やっぱりカレーだ」
「食べたがってたからね」

 そう言うくせに、横から手を伸ばして蓋を戻される。一体何の嫌がらせだ。

「洗濯物移動させないと臭くなる!」
「気にしねーよ」
「私が気になるの」

 もう作ってる時点で充分臭いがついてるのではないかと思うが、たしかに室内に干していたはずの洗濯物はカゴに山積みされている。

「作り始めて気付いて慌ててカゴに入れたの。畳むのはめんどくさかったから、帰ってくるの待ってたんだよ」

 腕を引かれキッチンを離れる。早く食いてえ、そう思ったがまだ炊飯器が湯気を上げて、頑張っている途中だった。それで彼女はダラダラしていたというわけだ。

「腹減ったー」
「あと十分くらいなんだから待って」

 どうせすぐ着るから適当でいいだろと思っていたのに、彼女が丁寧に畳むから、一緒になってきれいに畳む。彼女が家に来るようになって、少しずつ自分の家事スキルも向上している気がする。

「あと三分」

 炊飯器の残り時間を確認して、冷蔵庫からビールを取り出す。やることはやったし、もう飯の準備で問題ないだろう。そしてその足でもう一度カレーの鍋の蓋を開けて、臭いを嗅ぐ。

「早く食いてえ」
「私のビールは?」
「ほれ」

 カレーの匂いをつまみにキッチンでビールを開ける。疲れた身体にアルコールが染み渡り、ああーと声をあげれば、おっさんみたいと彼女が笑った。
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