お題:「眠れない夜」「触れる」


 外は雨風で騒がしく、寝ようにもつい気になってしまう。真っ暗な空っぽの街を想像して心細くなる。朝になれば通り過ぎる予報の台風も、一体いつまでこの街を覆っているのだろう。 早く眠りについて、この謎の不安感から解放されたい。
 哲次はもう寝ただろうか。たしか今日は遅くまでボーダーのお仕事があると言っていたはずだ。もしかして起きているかなと期待を込めて、台風すごいね、と送ってみた。 気が付かずスルーされても気にならない。なんの生産性もない話題。

「まだ起きてたのか」

 送った台風の話題は忘れ去られて、そんな返信が来る。呆れ顔でこのセリフをつぶやく彼を想像することは容易で、胸の奥があたたかくなった気がした。

「外の音、気になっちゃって」

 声が聞きたいなんてわがままを、言うのは簡単だけどやっぱり言えない。帰宅もきっと遅かったんだ。疲れてるに決まってる。心細い夜だけど、また呆れられてため息をつかれるのを耳元で感じたら、きっと余計に眠れなくなる。電話する時は、やさしくしてくれる時だけでいい。

「明日起きられなくなるぞ」

 そう言うわりに、すぐ返信をくれる。せっかく好きな人とこうして会話ができているのに、眠れるわけないじゃないか。この見えない繋がりを、自ら断ち切ることなんてできない。
 眠れたら苦労してない、とか、連絡してないよって言おうとして悩んでいたら、またメッセージが届いた。

「明日は一緒に帰れると思う」

 嬉しくて、だるさが一気に吹っ飛んだ。眠らなきゃなのに、目が冴えてしまう。ドキドキさえしてきた。

「明日の放課後委員会あるかも」
「それなら迎えに行く」

 学校が違うから放課後会うときの待ち合わせ場所がある。でも時々こうして学校まで迎えに来てくれるのは、放課後デートでなによりも嬉しい。

「だから早く寝ろ」
「わかった! また明日連絡するね!」

 メッセージを送って画面を閉じる。そのまま画面を暗くして、布団をかけ直す。嬉しい。明日、といってももう日付は変わっていたのだけど、出来るだけ早く眠って早く起きて、髪の毛もきちんと整えて家を出たい。
 相変わらず窓の外は音がしていたけど、もう気にならなかった。頭の中は哲次でいっぱいになって、他のことを考える余裕さえない。クールなのにやさしかったり甘やかしてくれるところが、大好き。会えたら飛びつきたいなんて考えて、安心して眠りについた。
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