お題:ひみつの逢引


 お昼ご飯を食べ終えたらこっそりと輪から抜け出して、非常階段に向かう。溜まり場になっていて、人がいないことの方が少ないのだけど、長居する訳でもないから別にいい。ほんの少しだけ、二人きりで会えればそれでいい。 外でいくらでも会えるのだ。わざわざ学校内で会う必要なんてない。でも同じ学校に通っているのだ。たまには会いたいと言う気持ちもないわけではない。

「お疲れさまです」
「……お。珍しい。早いじゃん」

 いつも行けたら行くねと声をかけて、本当にちょっとの時間だけ会って立ち去っている。長く一緒にいると、離れたくなくなるし、相手は授業をサボろうとも言いかねないから。

「今日は何食べたんですか?」
「んーパン」

 眠そうに答えて、腰を下ろす。相変わらず適当だなあ。でもそう言うところが好き。別に隠すことはないけど、彼氏がボーダーだと知られると、ミーハーな人たちにあることないこと言われてしまう。 そのせいで別れたカップルを知っているから、それは避けたい。わたしだって本当はもっと堂々と付き合いたいし、彼氏がすごい人だと友達に自慢したい。

「今日、帰りラーメン食いに行こうぜ」
「ボーダーはないんですか?」
「隊長いない日は、行ってもゴロゴロしてるだけだからな」
「楽しみにしてますね」

 近くの集団が立ち去って、視界に誰もいなくなる。月に一度あるかないかの状況にドキドキする。当真先輩は居眠りの態勢で気付いてないらしい。せっかく人がいないのに、触れたら嫌がるだろうか。
 静かにしゃがみ込んで、眠ろうとしている先輩に顔を近付ける。頬に少しだけ触れて離れるけれど、恥ずかしくて逃げ出したい。そんなわたしが見えてるのか分からないけど、先輩は笑った。

「学校でこんなことしていいのか?」
「ダメなのでもうしません」
「もう隠さなくても、いいんじゃねーの」

 心が揺らぐ。いつまでも隠せるわけじゃない。だからせめて先輩の卒業までは秘密にしておこうと思ってたのだけど、もうこんな無理をしなくても、わたしたちは簡単に別れたりしないと思う。
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