お題:「大切だから、さよならしよう」
「大切だから、さよならしよう」
テレビドラマのセリフにうんざりする。泣きそうな顔でそれを告げるこの男も、物分かりのいい返事をするこの女も、どっちも頭がおかしいのではないかと思う。 そんなことを思ったところで、これは創作でしかないし、つまらないと思うなら見るのをやめればいい話。人生の浪費だ。だけれどこんなものを見てまで時間を潰している理由は、今日もまた、恋人からの連絡が遅いからに他ならない。 毎週火曜日のこのドラマが終わる時間までバイトのシフトが入っているから、仕方ないことなのだけど、待っている方は今か今かと言う気持ちだ。このつまらないドラマが終わったら連絡がくる。 そう思うと早く眠りたい気持ちも抑えられ、ご褒美のために苦行をしていると言う気分だ。この行為に何の意味もないのだけれど。
「今日はね、別れるって言い出したよ」
「先週は何があっても一緒にいるって言ってたんじゃないか?」
「そうなの。結局好きだけどさよならって。あほらしいよね」
確実にこのドラマを見ていない京介に、内容を話してしまうのは申し訳ないけど、つまらないのだから仕方ない。
「前回のドラマは面白かったのにな~」
数か月前は、この時間のドラマが面白くて夢中になって見ていた。そして面白いんだと京介に電話で伝えていた。だから火曜の九時からドラマを見ることがすっかり習慣になっていて、今回は外れだと思うのに、やめられないでいる。
「今回のドラマ、最後どうなると思う?」
「えーどうせ最後はまたくっついて終わりでしょう」
「なら俺は違う人とくっつく方に賭ける」
「えー違う人って誰?」
「見てないからわからない。でも、この方が楽しく見れるだろ」
たしかにそうかもしれない。京介との賭けがあれば、最後まで飽きずに見れそうだ。
「勝ったら今度、火曜日休みとって」
「わかった」
今この瞬間、ドラマの二人に親近感を抱く。障害があろうと、なんとかなるはずだ。だから二人は最後にはまた結ばれてハッピーエンドを迎えて欲しい。
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