「水上じゃん。声かけてよ。びっくりしたー」
「……何飲むか考えとった」
「ふーん」
休み時間、飲み物を買いに自動販売機までくれば先客がいて、なんとなく、他に人がいないことに居心地の悪さを感じた。
同じクラスの荒船の彼女。愛想のいい笑顔で話しかけられて、普通に可愛いとは思う。でももうピタッとそれ以上の感情がない。ずっと同じように感じているはずなのに不思議だ。
今ここで買ったココアの紙パックにストローをさし始める様子を見て、俺が買うまでここにいるんだろうと気付く。そうなると教室まで一緒になるだろう。ちょっとだけ面倒くさいなと思いながら、お金を入れてコーヒー牛乳を買う。
「そういえばさあ」
「なんや」
「水上最近さんと仲良いよね」
「……そう?」
「うん。席のせいかもだけど、よく話してるなって思う」
にやにやしながら言うのを見て言いたいことを察するが知らないふりをする。もう買ったから戻ろうと背を向けると、ついてきて、背中に話しかけられる。
「二人とも楽しそうにしてるし、いつもいい感じだな~って」
「まあ、付きおうてるし」
「は? 聞いてない!」
「言うてない」
クラスメイトにはまだ誰にも言っていなかった。そりゃその反応が正解だとは思うが、自分の発言が正解かはわからない。
「……ふーん」
「何にやにやしてんねん」
「だって、嬉しいじゃん。水上そういう感情死んでると思ってた」
死んでるわけないやろ。言おうとしてやめた。恋愛をしたいと思っていなかったところから、と付き合うようになるまでの間、恋愛する気になった最初のきっかけくらいには、コイツが影響している気はする。だか口にはできなかった。
コイツのことは変わらずかわいいとは思う。でもそれ以上に、今付き合っている彼女はかわいいし、ジャンルがそもそも違う。偶像的なかわいいと、脳によくないかわいい。は、絶対なんか脳に異常をもたらせているような、一種の麻薬のようなそんなカワイイなのだ。
「俺かて、お年頃ですから」
「いいじゃん。さんかわいいし、いい人だし、応援する!」
「いやもう付きおうてるから、応援はいらん」
「別れないように応援するってことだよ。……哲次も知ってる? 秘密?」
「他のヤツもまだ知らんから言わんといて」
「わかった。内緒にしておく!」
気軽に話せる女友達。と言う枠でいいのかは知らないけど、こんな感じで今後も関わっていければいい。コイツに惹かれたから、と思うと癪だけど、と付き合うきっかけになった存在、と思うとやはり無碍にはできないなと思う。知り合いの彼女だし。
***
何気なく教室のドアから入ってくる水上を視界に入れる。ジュース買いに行ってたんだ。いいな。誘ってくれればよかったのに。そう思ったら、後ろからあの子が楽しそうに教室へ入ってくる。
一緒だったんだなあ。それだけ。たったそれだけしか感じてない。と、思うのに、もやもやむかむかする。胃にきそうな感じ。こんなんで体調崩したらバカじゃん、そう思って感情を無にしようと試みる。でもあの子の笑顔が頭に張り付いてしまう。
「どないしたん」
「……なんでも」
「ふーん」
水上は横向きに椅子に腰かけ、コーヒー牛乳のパックにストローをさしこむ。飲み物いいな。持ってきたお茶、飲み終わってしまったっけ。でも今から買いに行ったら授業に間に合わない。
「飲む?」
「え」
「欲しそうやったから。いらんならええけど」
「……いらない」
ひとくちもらいたかったけど、教室だし、もうすぐ授業だからほとんど全員そろっている。まだ仲の良い友達にしか言っていないのに、そんな感じでばれるのは恥ずかしすぎる。
「今日、アイス食い行かん?」
「いいけど」
「ほな決まり」
水上は前を向いて座り直す。その背中にため息をひとつ。誘ってくれたのは嬉しい。でももやもやする。さっき、あの子と何を話したのか知りたい。今は、どう思っているのかも、知りたい。好きだったのはわかってて付き合ったし、付き合うときは、あの子のことが好きでもいいって思っていたはずなのに、今はもうそんなの嫌だと思っている自分が、嫌になる。
素直に嫌だと言えない自分も嫌だし、水上には面倒くさがられそうだし、あの子を嫌いになりそうだし、そんなことがぐるぐるめぐって、授業は全然頭に入らなかった。
「……今日、機嫌悪ない?」
「そうかな」
「自覚ないんかい」
あるに決まっている。何か話すと余計なことを言ってしまいそうで黙っているのが、不審がられる理由ではあるのだけど、本当に、余計なことを言いたくない。そんなことで、こじれたくない。
「ジュース買いに行ったとき、俺ら最近仲いいやんて言われてん。アイツに」
「うん」
「だから、付き合ってるって、言った」
びっくりして声にならなかった。そんなこと言うと思ってなかった。よくわからないけど最後まで、言わない相手ではないだろうか。
「言わん方がよかった?」
「いや、別に、どっちでもいいけど……」
「なんやねん」
びっくりして思考がまとまらない。きっとあの子はいい子だから素直におめでとうとか祝福してくれるタイプではないだろうか。まだ水上があの子のことを少しでも想っていたら、地獄ではないだろうか。打算的な水上がそんなこと選ぶはずがないし、と言うことは私の方が水上の中で大事に想われている、という結論で、正解?
都合がよすぎる気もしたけど、付き合ってるんだし、これくらいうぬぼれさせてくれてもいいだろう。別に、だからと言って何ってこともなく、ただ、私の中でもやもやを晴らすだけなのだから。
「……なんか言ってた?」
「別れないように応援するって」
「それは、嬉しい……」
「その顔おかしいやろ」
むぎゅっと音がしそうな勢いで頬をつままれる。にやけてたのがばれた。だって嬉しいんだもの仕方ないじゃないか。文句があるらしい水上はどう思ったのか気になるけど。
「水上とケンカしたら相談しに行く」
「やめろやアホ」
「応援されるの嫌なの?」
「応援されることちゃうやろ。別れる気ないし」
なんでこういうこと言えちゃうんだろう。私が水上を嫌いになること、自分では想像つかない。そもそもそんな縁起でもない話がよくないのだと思うけど、水上も同じように別れる気なんてないと思ってくれているなら、やっぱり嬉しい。
頬に触れてる手が恥ずかしいから放してくれと軽く叩けばすぐに離れる。それでも緩むくちもとは隠し切れそうにない。
「私も別れる気ないよ」
思ってた以上に小さい声になってしまったが、伝えてみたら水上もにやにやして、なんやムズムズするわ、と喜んでくれているようだった。