付き合ってはいたはずだけど、ずっと勝手にもやもやしていたせいで、素直になれなかった。両想いかあと、頭の中でつぶやく度に幸せな気持ちになる。
 好きという言葉は魔法だと思った。なんでもない言葉にも、とても意味を持つ言葉にもなる。頭の中で何度も繰り返される映像は、百を超える頃には、きっとちょっと美化されていると思う。もうすでに美化されてる気もする。こんなことある? って、信じられないくせにどうしても口元がゆるんでしまう。なんでこうなれたのかは全然わかんないけど、水上がああ言ってくれた事実はやっぱり嬉しいし、強がってすまして言うくせに自然と上がっていた口角も、きっと独り占めできていると思うと気分がいい。何度目かもうわからない脳内再生を堪能しながら、幸せに浸っていた。
 テストが終わったら、一緒にどこかへ行こうと話してはいたけれど、具体的な話はまだだった。これから夏休みもあるし、楽しみなことは、たくさんある。

「……ねえ、後ろにいる人知り合い?」
「さあ」
「いや、水上の話してるよね? 知り合いでしょ」
 水上とは相変わらず週に二度くらい一緒に帰っている。ボーダーの用事とかで早く行く日とか、わたしが友達と帰る日とかあって、それ以外の日と言う感じだ。テストが終わってから土日もあったし、夏休みとか、これからの話がしたかったのに。
「……話つけてくるから先に行っとって」
「え、何それ。やばい人?」
「いや普通に、知り合い」
 さっき知らんぷりしたくせに、そう言おうとしたけど顔に文句が出てたらしく、先にすまんと言われる。謝るなら最初から適当なこと言わなきゃいいのに。そう思うけど、そういう所が水上だし、すぐ謝ってくれるし別に嫌いじゃないんだけど。
 水上がため息をひとつこぼしてから、来た道を逆戻りする。先に行っていいと言われたが立ち止まって待つ。話したいこと、まだ話せていないのにそのまま解散になったら嫌だ。
「あの子が彼女やろ!」
 そこそこ大きな声で聞こえてくるから振り返ってしまった。声の主らしき人とばっちりと目が合って、水上はまた飽きれたようにため息をついている。
 水上の知り合いに「彼女」と呼ばれるのはちょっとだけ照れ臭いけど嬉しい。今の関係をお互い秘密にしてる訳じゃないけど、特に言い振らすこともないから周りには言ってない。こうやってじわじわと広がるのかと、どうでもいいことを考えてた。
 後ろに数人いた男の人たちが近づいてきて、どうしようと水上を見るけどいつものすまし顔。
「初めまして。いつも水上が世話になってます。今後とも宜しくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ……よろしくお願いします?」
「……これで気ぃ済んだでしょ。邪魔せんと帰って下さい」
「イコさんいきなりそれは、彼女さんビビってますて」
「水上先輩の彼女ほんとに存在したんすね?」
「海、失礼やぞ。怖がらせてもうてごめんなさい。帰ります」
「ほなまた」
 何が何だかわからないまま、話が終わって男の人たちは帰って行った。二人は制服だったから後輩だろうか。一人は私服だったし年上に見えた。関西弁だったし、一体何の知り合いなのだろう。
「……はあ~」
 水上は隣でこれみよがしな大きなため息をついた。今更ながら心臓がバクバクしている。嵐が去ったあとのよう。
「今の、ボーダーの人たちやねん」
「ああ、そうなんだ」
とおるところ、後輩が見たらしくて、そしたら隊長が会いたい騒いでて、今日ついに、来たってわけや」
「宜しく頼みに来た人が隊長?」
「せや」
「水上、大事にされてるんだね」
 なんだか笑ってしまう。仲間内で恋人ができたなんて聞いたらちょっと会いたいのはわかる。けど、それで会ってあんな風に挨拶してくれるなんて、きっといい人たちなんだなあと思う。
「まあ、そやな」
 びっくりしたけれど、嬉しくてにこにこしていれば、何がそんなにおもろいねん、とほっぺをつねられた。
「ボーダーの人は、みんな知ってるの?」
「隊の人らは」
「同じクラスの人たちは?」
「言っとらんけど」
「そっか」
 いいのか悪いのかわからない返事。でもそろそろ言ってもいい気がする。
は? 誰かに言った?」
「まだ」
「言わんの?」
「……友達にはそろそろ言うかな。水上と帰ってるし」
「まあ、せやなあ」
 友人が一緒に帰れないと言った日に、水上と一緒に帰っている。別に明るい時間に帰るわけだし一人で帰っていても問題はないだろうけど、コソコソしているようで気は引ける。
「人に言うの、嫌?」
 水上が自分のことを好きだと確認はできたし、十分伝わってきているのだけど、こういう時、ふとあの子がよぎる。あの子がどうってことはない。だって他校に彼氏がいるし。でもちょっとだけ、水上の心に隙ができそうで、怖い。
「……嫌も何も事実やん」
「そういう話じゃなくて」
「彼女自慢くらいさせてくれてもええやろ」
「自慢してくれるの?」
「そらちょっとくらいするかもしれんやん」
「なんでそこ曖昧なの」
 自慢できるような女ではないけど、自慢できる彼女になれたら嬉しい。そして私たちの関係に隙ができなければいい。