「明日も学校終わるん早いん?」
「あーテスト終われば終わりっすね」
「ほんなら学校終わりは、彼女とイチャイチャするんやろ」
作戦室で、明日のテスト勉強をしていたら、急にイコさんがまっすぐ見つめて言ってくる。真面目な顔で言う言葉ではない。使っていたシャープペンの芯を折ってしまった。
「そないなことしませんて」
「女の子は大事にせなあかんで。水上は何考えてるかわかりにくいとこあるしなあ」
「……そないなこと」
「あるで。俺にはわかんねん」
「何が」
「油断しとったら振られるで」
なんの助言だと、息を大きく吐いてから芯を送り出し、勉強を再開する。
「俺まちごうてないし。女の子泣かせたら罰ゲームやからな」
「なんで罰受けなあかんねん」
「なあ隠岐?」
「……隠岐なら合同訓練行きましたけど」
「いつの間に! ほんなら俺も個人戦しに行ってくるわ」
出ていく背中を見送って、先ほどのやり取りは一体なんだったんだと脱力する。いつもの特に意味のない話題なんだとは思うけど、現実味があってムズムズする。
付き合いたいと言ってきたのはの方だし、俺の方もそれなりに歩み寄ってはいるつもりだ。だが、このままでは別れる日も遠からずと漠然と思う。そもそもの方が何を考えているのかわからない。本当に俺のことを好きなのかとか、付き合ってどうしたいとか、何も考えていないとも思えないし、言ってくれないとどうにもできないこともある。
ふとした時に、とのことを考えることが増えた。当たり前といえば当たり前なんだけれど、ちょっとだけ悔しい気もする。
テストが終わり、一緒に帰ろうと言おうとしたら、その前に「一緒に帰れる?」と聞かれた。なんだか真剣な顔をしていて笑いそうになったけど、堪えた。そんなことに気合入れすぎだ。誘ってくれるのは初めてか、と思うとまた、いとおしさが増す。十分カワイイと思ってる。
そんなことを思いながら帰る道は、自然と距離が近くなったような気がした。人が多いと言うのもあるだろうけど、手を握っても、平気なんじゃないか、とまで思って自重した。はずだったのに、自転車を避けるために引き寄せたに簡単に触ることができてしまって、そこからは嫌がるかとか、どう反応するのかとか、気にするのをやめた。
昼がてらどこか店に入ってしまおうと思ったのに、は自動販売機を見つけて赤い顔をしたまま近くに座ろうと言ったが、暑さで具合でも悪くなったら困るなと思った。帰り道からは逸れるけど、半分だけ日陰になっているベンチを見つけてそこへ座ることにした。
「気持ちい」
「熱でもあるん?」
「ちょっと疲れただけ」
また触れたは熱い。テスト期間だったし、きっと一生懸命勉強をしていたのだろうから、疲れがたまっているんだろう。
「……ならええけど」
「大丈夫、だから」
真っすぐ見つめられると、うろたえてしまいそうになる。別に悪いことをしているわけじゃない。そう思うのになんだかうしろめたい。
プシュと音を立ててコーラの缶を開ける。気温差で缶の水滴がすごい。ごくごくと喉に流し込めば、一瞬の爽快感が突き抜けていく。
「……わたしはさ」
「うん」
「水上のこと、好きだよ」
「……うん」
「水上は?」
へ視線を移すけど目は合わない。じっと、地面を見つめている。いつも、真面目な顔で本心がわからないけど、これも実はただの照れ隠しなのではないだろうか。
「好きやけど」
「……けどなに?」
「いや続きなんてあらへん」
「紛らわしい」
「いや普通わかるやん」
これも全部照れ隠しだ。だってもう、顔から嬉しいが浮き出てきている。自分も人のことを言えない顔をしている気がしたけど、そこは知らないふりをした。
「カワイイ」
「やめてよ、今そんなこと言うの」
「いつなら言うてええの」
空いている手で顔を隠そうとするから頬をつまむ。カワイイ。めちゃくちゃにやけているのがわかる。だからつられてしまう。
「キスしてええ?」
「やだ」
断られたのでおとなしく手を離し、もう一度コーラを流し込む。本当にこちらまでにやけてしまう。
「なんか、恋愛で脳みそお花畑になる気持ち、ちょっとわかった」
「そんなに嬉しいんやったらもっと素直に言うてや」
「無理……」
「ええやん。俺の前だけなんやし」
こんなに喜んでくれるのなら、もっと早く言ってやればよかった。彼女を素直じゃないと思っていたけど、自分も素直じゃなかったらしい。