明日でテストは終わる。やっとあの重い空気から解放される。もうじき梅雨も明けるだろう。そして夏が来れば長期休みだ。
休日デートと言う名の勉強会は普通に勉強をして解散した。図書館からファミレスに行く間、傘を盗まれたと言う水上のせいでひとつの傘に入ったけど、帰りは雨が上がっていて、いつもの距離で歩いた。なんだかちょっと残念な気持ちではあったけど、終始いつも通りの水上に振り回されないよう、私も何でもないふりをした。
好きなんだけど、好きって言えない。出せない。それは水上のせいにしたいのだけど、本当の原因をもう自分で分かっている。
水上の本心を聞かせて欲しい。それにはたぶん私の本心も伝えないと教えてはくれないだろう。ずっと、自分の本心をさらすことに怯えていた。だって、ずっとずっと水上に見せないようにしていたのに、それを急に表に出すなんて、脳がおかしくなる。けど、水上は付き合ってから、私とちゃんと向き合ってくれていると思う。それはずっと知っている。うまくできないと逃げているけど、そんなの水上に失礼だ。
逃げていたおかげでテスト勉強も捗った。だけどもう、できる言い訳はない。
テストが全部終わった後、自分から一緒に帰れるかを聞いた。もしかして予定があるかもしれない。そう考えるとドキドキして死にそうだったけど、水上は「ええよ」と答えてくれた。
荷物を片付けて、教室を出る。水上がテストがどうだった、とか何でもないことを口にするけど、あんまり聞いてなくて、うん、とかあいまいな返事しかできなかった。
「……なんかあったん?」
私が上の空だったからか靴を履き替えてから水上はずっと黙っていた。少し歩いてから優しく話しかけられて動揺した。
「……なにも」
「ならええけど」
「…………」
帰り道にいつもみたいに話をすればいいと思っていた。でも、今日はテスト終わりで一斉に学校が終わったし、近くの高校もテストなのか、歩いている学生がたくさんいる。どうしたらいいだろうかと、必死に考えているけど、すぐに正解が見つからない。
「あの、話が」
「危ない」
寄り道を提案しようとした。一緒に帰れても寄り道する時間が水上にあるかはわからないし、確認してからにしようと見上げた時だった。
さっと肩に手がまわって引き寄せられる。勢いで鼻がワイシャツにぶつかってしまう。
「こんな道でスピード出すなや」
通り過ぎて行ったらしい自転車に悪態をついてから、「大丈夫やった?」と聞かれる。ぶつけた鼻をおさえながらうなずくと、心配された。
「見してみ」
「やだ」
「ええから」
鼻を抑えていた手をつかまれどかされて、反対の手で鼻をつままれる。
「大丈夫そうやな」
「はなして」
「変な声」
誰のせい、と言ってやりたいのに言えなかった。触れてるところもそうじゃないところも、全部熱を持っている。ぶつけた鼻が痛いんじゃなくて、恥ずかしくて手で隠していたのに。
「帰ろか」
水上は真っ赤になった私に気が付いていると思う。そのことには何も触れず、また歩き始める。
「……ねえ」
「なんや」
「ゆっくり話する時間、ある?」
「……ええけど」
熱い。冷たいものが飲みたい。せっかく今日はがんばると思っていたのに、早くもペースが乱されている。そういえばさっきのお礼だって言っていない。嫌な女。
「さっき、ありがとう……」
「おう」
ドキドキが落ち着かなくていやな汗が出る。日差しも暑いけど、自分の熱さはそれだけじゃないとわかる。水上も暑そうだけど、それは日差しのせいだろうな。
「……暑いしどっか入らん?」
「うん」
「昼飯は家?」
「どっちでも平気」
「んー」
自分の家の方へ歩いているし、自分が決めるべきだと思うのに頭が働かない。もう一旦休憩させてほしい。
「自販機! ジュース買っていい?」
「ええけど」
「ちょっと座ろう」
自動販売機横の段差を指さして提案すると、水上は嫌そうな顔をした気がする。嫌だか聞こうとしたら、少し離れた場所にベンチがあると見つけてくれたので、飲み物を買って、そこに腰を下ろすことにした。
「気持ちい」
缶のコーラを頬に押し当てて、体温を下げる。でもぬるくなったら嫌だから、ほどほどにしておいた。
「熱でもあるん?」
「ちょっと疲れただけ」
缶をはなしたあと、額に手を添えられる。さっきまで自分の缶で冷えたのか、水上の手は冷たくて気持ちよかった。とはいえ今日、距離感がおかしくないだろうか。前に隣に座った時は、もう少し遠かった気がする。それとも私の勘違いで、意識しすぎなだけなのか。いや、こうして触れてくるのは、今日が初めてのことだし、さっきのこれは、やっぱりなんかおかしいと思う。