付き合っているのだから、こういうことは当たり前なんだと思っても、どうしても、頭がついてこない。なんで、私と水上が、休日にわざわざ会うのか。おかしい。これは何かの幻覚ではないだろうか。そんな気持ちと、純粋に嬉しくてたまらない乙女心が競り合っている。
 行きたいところなんて別にない。水上と一緒なら何でもいい。美味しいもの食べたりするのがいいかな。きっと私が決めなくても、水上は何かを考えて提案してくれるだろう。けど誘ってくれたのだし、私がしたいことを、素直に言ってみたい気もする。
 教室ではいつも通りだし、たまに一緒に帰るようにもなったけど、結局私たちの関係は曖昧なままだ。そもそも付き合うってどういうことなんだろうか。好きって言い合ったり、用もないのに一緒にいたり、連絡とったり、そういうことをしたいとは、思う。好きだから。でも水上は? そう思ってしまうとわがままを言う勇気が出ない。だから自分から一緒に帰ろうと言えないし、話しかけても結局付き合う前と同じように、憎まれ口をたたいてしまう。
 かわいいと思ってもらいたいと思うし、もっといいなって思ってもらえるように頑張りたいとも思う。そう思っているのに、全然うまくいかない。だから、せめて、休日デートは、どうにかがんばりたい。そう頭の中では、ちゃんと思っていた。

 週末の予定を早く決めたかったのに、どれもこれもなんだかピンと来なくて、よく考えたら再来週はテスト期間だったと気が付いてしまった。水上は勉強しなくても何とかなるのかもしれないけど、私は無理だ。ある程度の勉強はしておきたい。さぼったら目に見える点数になって返ってきてしまう。
「週末は、図書館でテスト勉強しませんか」
「色気ないなあ」
「だってもうテスト範囲出たし、遊んでる場合じゃないんだよ私は」
「ほんなら、テスト終わったらどっか行こか」
「え」
 まだ今決めてる予定が済んでもいないのに、もう次の話なのか、とびっくりしていれば、行きたないの、と呆れたように言われてしまった。
「……い、行く」
「土曜日も丸一日勉強するわけちゃうやろうけど、せっかくデートしよう言うとったわけやし」
「うん」
 水上の方が彼氏ヅラしてる気がしてとてつもなく恥ずかしい。こんなんでは自惚れてしまう。好きと言われてもいないし、好きでいてくれているのかもわからないし、どう思ってるのかすらわからないのに、それでも、この関係でいいと、思ってしまう。水上のくせにずるい。私ばかりが、どんどん好きになってしまう。
 本当は、もっとちゃんとデートらしいことをしたいと言いたかった。でも私には無理だった。逃げてしまった。だって、今もまだ、なんで自分たちが恋人同士なのか、わかっていない。
 このまま何も考えず、普通に付き合っていけばいいだけなのに、どうしてもそうできない。そんなことをしても、満たされないって、なんとなくわかるから。

***

 雨が降りそうで降らない日が続いていたのだけれど、初めて休日に約束をした土曜日は雨だった。出掛けるのが面倒くさいと思ったのも事実だけど、行かないと言う選択肢はない。
 付き合い始めてもうひと月が経った。恋人になったと言っても一緒に帰るくらいでそれだけだ。俺たちの距離は近付けているのだろうか。あの日から、少しずつ好きになっている気もしなくはないが、ゆるやかな変化で決定的な気持ちの揺らぎがないことで、どう振る舞えばいいのかよくわからない。
 始まり方がどうだったとはいえ現状、彼氏彼女と言う関係におさまっている以上、それなりにそれっぽいことをした方がきっと楽しいと思う。だけどミョウジがあまりそれを望んでいないから、結局代わり映えのない日々を過ごすことになっている。
 待ち合わせは図書館だった。昼は一緒に食べようと言ったせいで、十時には図書館に着くように歩いている。誰がこんな雨の中朝から図書館に行くんだよと思っていたのだが、雨で行く場所がないからなのか、図書館にはそこそこの利用者がいた。
「水上」
「……おう」
 勉強ができるスペースから、声をかけられる。待ち合わせよりは早く来たと思ったが、ミョウジはずっとここにいたように荷物を広げていた。
「ずっとおったん?」
「うん。どうせ家にいても勉強してたし」
「真面目やなあ」
 積んである問題集を見てつぶやけば、うるさい、と言い返された。自分はテスト後に提出させられる問題集くらいしか持ってきていないが、一体どれくらい勉強するつもりなのだろうか。