にあんなことを言われるとは思ってもいなかった。バレてたのか。でも付き合いたいと思っていたわけでもないし、むしろ付き合おうと思ったということは、実はの方が好きだったのかもしれない。そんな気さえしてきてしまう。俺と付き合えたらそれで充分て、カワイイとこあるやん。
 アイツのことは多少好きではあったけど、荒船の彼女だし、そこをどうこう頑張る気なんて一切ない。そう思ったタイミングで運よくその隙間にが入り込んできた。ただそれだけだ。
 二人が同じ時に恋愛対象として頭の中に存在していなかったから、比べることも上手くできない。客観的に見てであれば、アイツの方が明るくて愛想があってかわいげもある。ただ、は澄ましているように見えてときおり漏れる感情が、カワイイところもあるじゃないか思う。自分だけへの特別感というか、他の男には見せないだろう一面を独占していると思うと気分がいい。
 比べられないと思いつつも、知らなかったを知ることでじわじわと自分の中で勢力をあげている実感はある。今焦って恋人感を繕ってもダメにするよりは、このまま大きくなる気持ちが止まることなく進んでいく様、祈るばかりだ。
 学校では相変わらずだった。時々こちらから声をかければ一緒に帰る。寄り道もせず、家まで送るだけ。これの何が楽しいのかはよくわからないけど、最初のうちはこんなもんだろうと思った。ただ、こんな小学生みたいなお付き合いがいつまで続くのだろうとも思った。付き合っていればいつかは性的なことをするかもしれない、なんて妄想をすることもあるけれど、うまく想像できない。手すら触れたことがないから当たり前だ。その時どんな顔をするのかも、知らないしわからない。だけどきっと、カワイイのだろうなと思うと、もう少し近づきたいという気持ちが生まれてもくる。
「……それは珍しいな」
「だかからあれは絶対彼女やと思うんですわ」
「でも、彼女できたら、教えてくれるやろ。俺やったらすぐ言うし」
「いやあどうでしょう」
「なんや、隠岐は彼女できても教えてくれへんの? さみしいわ~」
「女の子も大人しそうやったし、内緒にしたいんちゃいます?」
「え、スルー? 隠岐も内緒の彼女おるん?」
 いつものように作戦室に入ろうとしただけだが、聞こえてくる話に踏みとどまった。敏感になってしまっていることは少し恥ずかしいが、もしかしたら自分の話かもしれないと思えば、タイミングは図ったほうがいい。
「水上先輩何してんすか! 入んないんすか!」
 ドアの前で突っ立っていると、海が現れてドアを開けた。案の定、イコさんと隠岐が気まずそうな顔でこちらを見ていて、いたたまれなくなった。
「……水上」
「なんです?」
「彼女できたん?」
 真剣な顔で聞いてきた隊長に、嘘は言えない。しかし今のなんとも言えない状況で、人に恋人ができたと言ってもいいのだろうか。自分のことにいっぱいいっぱいで、周りのことは特に何も考えていなかった。
「まあ、そうっすね」
「どういう感情の顔やねん」
「えー! 水上先輩いつのまに彼女できたんすか!」
「ええやないですか別に」
「いや、これは重大なことやぞ! なあ隠岐」
「女の子送ってる姿、似合てましたよ」
「馬鹿にしてるやろ」
 あからさまに大きなため息をついても、みんなは好き勝手しゃべるのをやめない。面倒くさ。
「……どうでもええですやん」
「いやいや、どうでもよくないやろ。隠岐だけ彼女見てずるいわ」
「いやあ、おれもちらっと見ただけなんで」
「オレも会いたいっす!」
 なんでよりによってここの人間に見つかってしまったのだろうか。クラスメイトならまだ適当にごまかせた気もするが、きっとこの先しばらくはイコさんにいじられるのだろうと思うと、面倒くさい。

***

「今週末ひま?」
「……なんで?」
「質問を質問で返すなや。感じ悪いで」
「水上の方がいつも感じ悪い」
 何度目かわからない帰り道。の帰宅ルートにも慣れてきた。いつまでもこんなことをしていても仕方がない。進展させるにはいつもと違うことをした方がいいだろうと、切り出した。
「予定がないなら、デート。どうですか?」
「……」
「無視かーい」
 せっかく恥ずかしいと思いながらも我慢して言っているのに、こういうとこやぞ。かわいくないのは。そう思って、正面に回り込んだ。正面に立つは、思っていたよりも小さく見えた。
「い、いきます!」
「おう……」
 潤んだように見える目に、ドキリとさせられる。かわいくないと思ったあとにこれはズルい。こっちも目を合わせられなくなってしまい、おとなしく隣に戻った。
「日曜日は予定あるから、土曜日がいい」
「ええよ。……何かしたいことある?」
「水上いつもそれ」
「思いついたらなんか言ってや」
「うん。考えとく」
 この空気にむずむずした。でも悪くない。今まで何もないままだったのが、少しだけ好転したような気になった。