ボーダーの訓練帰り。時間がいつもより早かったので、せっかくだからと一緒に夕飯を食べることになった。ボーダー本部内で済ませてもよかったのだが、ゆっくりするなら外の方がいいと思ってわがままを言って街まで出た。
 付き合う前を含めても、二人でご飯は初めてのことだった。本部内では会えば相席をすることもあったけど、知り合いが声をかけてきたりで結局二人きりだったことはないし、外で食べると言う時も、みんながいて誘ってもらうとか、そんなのばかりだ。
 今はもう、付き合っているのだから堂々ど二人で並んで歩ける。それだけで嬉しかったし、十分だったけど、こういうチャンスも無駄にしたくはない。口実があるうちは、できる限り一緒にいたい。
「何が食いたい?」
「なんでも。あ、そこのファミレスでいいです」
 弓場先輩はなんだか渋い顔をしたように見えた。だからもう一度「ファミレスがいいです」と言い直したら、今度は頷いてくれた。
 席に通されて、メニューを開く。視界からの情報に、一気に空腹が感じられた。何にしよう。
「本当にここでよかったのか?」
「え? そんなに心配してくれてたんですか?」
「……いや。うまいもの食べさせてやれって、言われてたから」
「先輩と一緒ならなんでも美味しいです」
「そう言う話じゃない」
 先輩はそう言ってからまたメニューに視線を落としてしまった。嬉しくてにやけてしまう。誰に言われたのか気になるけれど、聞かない。そんな細かいことはどうでもいい。
「そしたらせっかくなんで、ピザ一緒に食べましょう!」
「どういう理屈だ」
「いつも食べないもの食べれば特別感出るかなって」
「……なるほど」
「これも半分こしましょ」
「そんなに食うのか?」
「ええ? むしろ控えめですよ」
「え?」
 他に一人前何かを頼むと思っていたらしい先輩はびっくりしている。いくらおなかが減っているとは言え、さすがにそんなに食べられない。
「足りないなら先輩は他にも食べてください。わたしはデザート食べます」
 注文を済ませれば、一気に空腹に襲われる。そして一日の疲れも襲ってくる。
 あくびをひとつ、手では隠したけど顔を逸らしたりしなかったので、それを見た先輩がまた眉間にシワを寄せた。
「疲れてるのか?」
「まあ、それなりに」
「いつもちゃんと寝てるのか?」
 同年代に比べたら寝ている方だと思う。夜更かしよりも早起きの方が得意だと思うから宿題を朝に回しがちだし。時々寝坊してこっそり学校でやる羽目になるのだけど。
「いっぱい寝てます」
「本当だろうな」
「トリオン体でも頭を使うと戻った時、疲れません?」
 肉体疲労はないのだけれど、精神疲労は蓄積されていると思う。先輩はそう思うことはないのだろうか。きっとそもそもの体力が違いすぎる。体格も食べる量も違うし当たり前か。
「そうかもな」
「あ、今適当に返事した」
 図星らしく、先輩は苦い顔をした。表情豊かとは言い難いけど、この顔の感情のバリエーションは結構あると思う。
 そんなことを考えていれば料理が運ばれてくる。ファミレスのご飯なんて温めているだけなのかもしれないけど、それでもおいしくて好き。
 食べ始めてもやっぱり眠気に襲われてしまって、時々ぼーっとしてしまう。先輩はもりもり食べていて気持ちがいい。好きだなって、また思う。
「わたしの分もどうぞ」
「そんな少ししか食べなくていいのか。あとで腹減るぞ」
「今日はもうたぶん大丈夫です。帰ったらすぐ寝るので」
「ここで寝るなよ」
 先輩はわたしの顔を見て笑う。まばたきの回数が増える。ねむい。先輩かっこいい。ねむい。ご飯おいしいけど、フォーク重たい。
「さっさと食って帰るぞ」
「はあい」
 せっかく先輩といるのだ。もったいない。冷たい水をひとくち飲んで、目を覚ませと自分に言い聞かせた。