弓場さんと付き合えることになった。嬉しかったし浮かれていたけど、次の日風邪で寝込んで学校も任務もお休みしてしまい、さらには部屋で一人の心細さも相まって、あれは全部夢だったのかと思うようにもなった。わたしが本当に彼女なら、風邪を引いたと連絡してもいいのかな。連絡先はかなり前に交換だけしたけど何も、やり取りをしたことはなかった。
 夕方、食欲もないけどご飯に呼ばれて部屋を出た。水分は摂りたいし、できたら薬も飲みたい。何か食べたい気もするけど、受け付ける気がしない。身体は重くてだるいけど、明るいリビングに少しだけ、気分も明るくなった。
 具合は悪いけど、誰かといることに安心を覚えて食卓に居座った。やわらかく煮たうどんを少しだけ食べて、薬を飲んだら楽になった気がした。テレビではクイズ番組が流れていて、一緒に答えを考える気もなかったけど、ぼうっと眺めた。
 部屋に戻ったのは二時間ぐらい経ってからだった。お風呂は入りたかったけど、髪の毛を乾かす元気が絶対にないから明日の朝にしようと思った。どうせ布団もすでに汗臭いし。昼間に十分睡眠はとったつもりだけど、また眠くなってきた。布団に入り、携帯電話を手に取る。充電減ってないけど、線刺しておこう。明るくなった画面の通知を見て、びっくりして身体を起こした。さっきまで頭が重いと思っていたのも今は感じない。けどそんなの長くは続かなくて枕に顔をうずめた。やっぱり汗臭かった。
 弓場先輩から着信が一回と、メッセージ。ドキドキしながら開く。「寝ていたら悪かった。体調大丈夫か」ってそれだけだった。でもそれだけがすごく嬉しくて、熱がまた上がるのではないかと心配になった。
 電話をしたかったけど、今すごく鼻声だし途中で咳が出たら嫌だからかけ直すのはやめて、メッセージの返信画面を開く。なんて送ろうか。
「一日休んだので、少しはマシになりました」
 打込んだ文字を口にしてから、送信ボタンを押した。変じゃないかな。頭が回らなくてよくわからない。返事はすぐには来なかった。そんなに期待してもいなかった。たとえ元気だったとしても、どんなことを書いたらいいのかわからなくて、いっぱい頭を使って悩んでやっとメッセージを作ったと思う。だから正直今はそっとしておいてほしかった。けど、ひとことが嬉しくてたまらなくもあった。恋とは難儀なものだ。
 寝たいけど返事が来るかもしれないと気になって眠れない。そんな風に待っていた時間が長く感じられたけど、実際には十分やそこらで返事はきた。
「ゆっくり休むように。お大事に」
 話を切り上げられた気がする。でも初めてのやり取りなんだからもう少し話したい。わたしが風邪を引いたって、誰に聞いたんだろう。心配してくれたのだろうか。昨日あんな風に濡れたからだってあきれたかな。
 たくさん聞きたいことはあったけど、明日学校で会えたらそれが一番いい。早くよくなって、先輩に会いたい。
「ありがとうございます。おやすみなさい」と返信をして、眠りにつくことにした。付き合い始めた初日に会えないなんて、さびしいと思っていたけど、わざわざ先輩から連絡してくれて、それだけで嬉しい。一緒にいる時間は、これから増えればいいと思う。鼻はまだつらいけど、ぐっすり眠れる気がした。